「“自民圧勝”をどう読むか(下)」

2017年11月24日

10月22日に投票が行われた戦後48回目の衆院議員選挙は、平和憲法の精神を厳格に履行してきた戦後体制を見直すかどうか、について国民に問いかける性格のものでした。結果は自民党が圧勝し、今後、憲法9条の見直し(自衛隊の明記)が具体的に検討されることになります。前回は憲法9条の内容と改正手続きについておさらいをしました。今回は、このように重要な選挙だったにもかかわらず投票率が戦後2番目の低さにとどまったのはなぜなのか、考えてみたいと思います。

投票率は54%弱でした。今回から初めて投票に参加した18歳、19歳の若者を含めて有権者の半分しか投票場に足を運ばなかったのです。麻生副総理が「北朝鮮問題が自民党に幸いした」と口をすべらしたと伝えられていますが、それなら憲法9条改正論に国民の関心が高まり、投票率も上がったはずです。反対に最低水準だったということは、戦後70年にわたって政治家や学者の世界で議論されてきた憲法改正問題に国民はあまり関心を持っていなかった、ということではないでしょうか。データで確かめてみましょう。

まず憲法改正に関心があるかどうか。NHKが今年の3月に興味あるアンケート調査を行っています。全国の18歳以上4,800人に個人面接法で実施したものです。質問は「憲法についてどの程度話題にするか」。結果は、「あまりない」が44%、「まったくない」が32%で、8割近くが、関心がないということでした。今回の選挙の投票率の低さを説明する有力な証拠ではないでしょうか。

次に、関心が全体として薄いことを前提に国民が憲法改正論をどう考えているのか、みてみましょう。

安倍首相が憲法9条に「自衛隊を明記したい」と踏み込んだ発言をした5月以降、マスコミ各社が一斉に憲法改正への賛否を問うアンケートを実施しています。ところがメディアによって読者層が異なることに加えて、質問の表現に違いがあることもあってはっきりした傾向は見いだせません。

一方、前述の3月の調査でNHKは「憲法9条の改正は必要か」を問うています。これに対する回答を、調査が行われた2002年と今年についてみてみます。2002年はアメリカへの同時多発テロが発生した翌年、ことしは北朝鮮情勢がかつてないほど緊迫したタイミングにあたります。2002年は「必要」が30%、「必要ない」が52%。2017年は「必要」が25%、「必要ない」が57%でした。少なくともNHKのアンケート調査では、国民は憲法9条改正に積極的ではないようにみえます。

次に少し違った角度から今回の投票率の低さについて考えてみましょう。2000年以降の総選挙でもっとも投票率が高かったのは、2009年の第45回衆院選で69%強でした。この前年の2008年9月にリーマンショックが突如として発生し、世界経済は「100年に1度」といわれた激震に見舞われました。これによってもっとも打撃を受けたのが日本経済でした。国民は有効な手立てを打てない自民党政権に愛想をつかし、民主党への「政権交代」を実現させました。

さていまはどうでしょうか。自民党が政権政党に復帰し、安倍政権が誕生した2012年12月に景気は拡大に転じ、ことしの9月で景気拡大期間は高度成長期の「いざなぎ景気」(57カ月)を越えました。たしかに成長率は低く賃金もあまり上がっていないのですが、失業率は2%台前半で労働市場は完全雇用状態にあります。8月に公表された内閣府の年次調査「国民生活に関する世論調査」によりますと、現在の生活について「満足」と答えた人の割合は73%を超え、過去最高を記録したということです。これに対し投票率が7割近くに達し、政権交代を呼び込んだ2009年の総選挙の時点では、「満足」の割合は61%に過ぎませんでした。

橘玲氏は「日本人」(幻冬舎)で、「国際的な価値観調査によれば、日本人は世界でもっとも世俗的な国民だ」と述べています。日本人は自分あるいは自分の利益に直接関係のないことがらにはあまり関心を持たず、目先的で戦略性に乏しいという分析もあります。自分の目先の生活にさえ不安がなければ政治に関心を示さない-。投票率が低かった理由はこのあたりにあるのではないでしょうか。

なお今回の総選挙で自民党が圧勝したのは、同じ選挙区では1人しか当選しない小選挙区制のもとで、小池(百合子)新党と呼ばれた「希望の党」の突然の旗揚げによって自民対抗勢力が分裂し、結果として自民党が漁夫の利を得るかたちとなったからに過ぎません。
(2017年11月24日記)


内田茂男常務理事 【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか